居宅介護や重度訪問介護などの事業所で、「たんの吸引や経管栄養が必要な方のご依頼をお断りしている」というお話を聞くことがあります。介護福祉士ではない介護職員でも、研修を修了し、必要な手続きを済ませれば、医師の指示の下で喀痰吸引等を行うことができるとされています。ただし、そのためには職員一人ひとりの「認定証」と、事業所の「登録」の両方が必要です。この記事では、すでに障がい福祉サービスを運営している事業者の方に向けて、決まったご利用者を対象とする「第三号研修」を使った登録の流れを、法令と大阪府の公式の案内をもとに表で整理してご紹介します。
この記事のポイント(3つ)
- 介護福祉士ではない介護職員が喀痰吸引等を行うには、職員の認定証(認定特定行為業務従事者認定証)と、事業所ごとの登録(登録特定行為事業者)の両方が必要とされています。
- 第三号研修は、決まったご利用者を対象とする研修で、基本研修(講義・演習で合計9時間)と、そのご利用者のもとでの実地研修で構成されています。
- 事業所の登録には、医師の文書による指示、計画書、医師への報告書、安全委員会など、医療関係者との連携と安全のための体制を整えることが求められています。
この記事で使う言葉(用語解説)
| 言葉 | かんたんな意味 |
|---|---|
| 喀痰吸引等(かくたんきゅういんとう) | たんの吸引(口の中・鼻の中・気管カニューレの内部)と、経管栄養(胃ろう・腸ろう・経鼻)の5つの行為の総称。 |
| 第三号研修 | 喀痰吸引等研修のうち、決まったご利用者を対象とする課程。法令の別表第三に定められているため、こう呼ばれます。 |
| 認定特定行為業務従事者 | 喀痰吸引等研修を修了し、都道府県知事から認定証の交付を受けた介護職員。 |
| 登録特定行為事業者 | 認定特定行為業務従事者に喀痰吸引等を行わせるために、都道府県知事の登録を受けた事業者。 |
| 実地研修 | 実際のご利用者のもとで行う研修。医師・看護師などが、知識・技能を修得したかを評価します。 |
結論:「人の認定証」と「事業所の登録」の2本立てで考える
喀痰吸引等を事業所の業務として行うには、次の2つがそろっている必要があるとされています。
【図1】必要な手続きは2つ
| 職員の手続き | 事業所の手続き | |
|---|---|---|
| 名前 | 認定特定行為業務従事者認定証の交付申請 | 登録特定行為事業者の登録申請 |
| 単位 | 職員一人ごと | 事業所ごと |
| 前提 | 喀痰吸引等研修(第三号研修など)の修了 | 医療関係者との連携・安全のための体制が整っていること |
| 大阪府の窓口 | 福祉部 障がい福祉室 生活基盤推進課 | 同左(大阪市・堺市の事業所も含みます) |
※ 介護保険のサービスを主に行っている事業所は、窓口が異なる場合があります。大阪府にご確認ください。
社会福祉士及び介護福祉士法では、喀痰吸引等の業務を行おうとする者は、「その事業所ごとに、その所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない」とされています。職員が研修を修了して認定証を受けていても、事業所の登録がなければ、事業所の業務として行うことはできません。
理由:法令で「職員の要件」と「事業所の要件」が別々に決められているから
対象となる5つの行為
【図2】喀痰吸引等の対象となる行為
| 区分 | 行為 |
|---|---|
| たんの吸引 | 口腔内の喀痰吸引/鼻腔内の喀痰吸引/気管カニューレ内部の喀痰吸引 |
| 経管栄養 | 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養/経鼻経管栄養 |
第三号研修を修了した職員が行えるのは、このうち実地研修を修了した行為だけとされています。ご利用者に必要な行為が何かを、先に確認しておくことが大切です。
第三号研修の内容
【図3】第三号研修の構成
| 内容 | |
|---|---|
| 基本研修 | 重度障害児・者等の地域生活、障害と支援、緊急時の対応・危険防止に関する講義と、喀痰吸引等に関する演習。合計9時間とされています |
| 実地研修 | 実際のご利用者のもとで、医師・看護師などの評価により、必要な知識・技能を修得したと認められるまで行うとされています |
研修は、都道府県または都道府県知事の登録を受けた研修機関が行うとされています。実地研修は、ご利用者ご本人・ご家族や、主治医・看護職員の協力があって進められるものです。
事業所の登録で求められること
【図4】登録の要件(主なもの)
| 区分 | 求められること |
|---|---|
| 医療関係者との連携 | 医師の文書による指示を受ける |
| 医師または看護職員が、ご利用者の状態を定期的に確認し、情報を職員と共有する | |
| ご利用者の希望・医師の指示・心身の状況を踏まえた計画書を作る | |
| 実施状況の報告書を作り、医師に提出する | |
| 状態の急変に備え、緊急時の連絡方法を決めておく | |
| 安全のための体制 | 医師または看護職員を含む安全委員会の設置、研修の体制の整備 |
| 必要な備品をそろえ、衛生的に管理する(感染症の予防) | |
| 計画書の内容をご利用者・ご家族に説明し、同意を得る | |
| 業務で知った情報を適切に管理し、秘密を守る |
書類をそろえるだけでなく、主治医や訪問看護など、医療関係者との連携の体制を実際に作れるかが、登録の大きなポイントになります。
流れ:大阪府での手続きの例
【図5】第三号研修を使った登録の流れ(大阪府の例)
| 順番 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 対象のご利用者と、必要な行為を確認する | ご本人・ご家族の意向、主治医・看護職員の協力が得られるかもあわせて確認します |
| 2 | 職員が第三号研修(基本研修+実地研修)を修了する | 実地研修は、そのご利用者のもとで行います |
| 3 | 職員ごとに、認定証の交付を申請する | 大阪府の案内では、申請書(様式4-2)、住民票の写し(原本)、誓約書(様式4-3)、研修の修了証明書の写しなどが必要とされています |
| 4 | 医療関係者との連携・安全のための体制と書類を整える | 業務方法書、計画書・報告書の様式、安全委員会などを準備します |
| 5 | 事業所の登録を申請する | 大阪府の案内では、登録申請書(様式1-1)、定款(または寄付行為)と、履歴事項全部証明書の原本、誓約書、登録適合書類、従事者の名簿などが必要とされています |
| 6 | 登録を受けてから、喀痰吸引等の業務を始める | 職員が増えた・行為を追加するなどのときは、変更や追加の手続きが必要とされています |
大阪府の案内では、事業所の登録の申請のときに、認定証が申請中の職員は、認定証の交付申請書の写しを出す形とされています。認定証と事業所の登録は、並行して準備を進めることもできます。
手数料について
大阪府の案内では、手数料が示されているのは、不特定多数の方を対象とする研修(第一号・第二号研修)の修了者がいる場合です(事業所の登録2,300円、認定証1,400円など)。第三号研修の修了者だけの場合は、手数料の記載がありません。 手数料が必要な場合は、窓口で書類の確認を受けてから納付する流れとされています。個別の扱いは、申請のときに窓口でご確認ください。
具体例:つまずきやすい点3つ
【図6】つまずきやすい点
| つまずき | 起こりやすいこと |
|---|---|
| 認定証があれば足りると考える | 事業所の登録がなく、業務として始められない |
| 医療関係者との連携を後回しにする | 医師の文書による指示や、計画書・報告書の流れが作れず、準備が止まる |
| 研修を修了した行為・ご利用者の範囲を確認しない | 行えるのは実地研修を修了した行為に限られるとされている。新しいご利用者・別の行為が必要になったときの手続きは、窓口への確認が必要 |
つまずき1:認定証があれば足りると考える
研修を修了して認定証を受けるのは、職員の手続きです。事業所としては、別に登録が必要です。職員が別の事業所から移ってきた場合も、今の事業所の登録がなければ、事業所の業務として行うことはできません。
つまずき2:医療関係者との連携を後回しにする
登録の要件の多くは、医師・看護職員との連携に関わるものです。主治医からの文書による指示や、報告書の提出先、緊急時の連絡先を決めるには、相手との調整に時間がかかることがあります。研修の申込みと同じ時期に、主治医・訪問看護などとの相談を始めておくと、手戻りを防ぎやすくなります。
つまずき3:研修を修了した行為・ご利用者の範囲を確認しない
第三号研修は、決まったご利用者を対象とする研修です。行えるのは、実地研修を修了した行為に限られるとされています。新しいご利用者を受け入れるときや、別の行為が必要になったときは、どのような研修・手続きが必要になるかを、事前に窓口にご確認ください。
居宅介護の人員・設備の基準は、居宅介護を開設する前の「順番」の記事で整理しています。
まとめ
- 介護福祉士ではない介護職員が喀痰吸引等を行うには、職員の認定証と事業所ごとの登録の両方が必要とされています。
- 第三号研修は、決まったご利用者を対象とする研修で、基本研修(合計9時間)+実地研修で構成されています。行えるのは、実地研修を修了した行為に限られます。
- 事業所の登録では、医師の文書による指示・計画書・報告書・安全委員会など、医療関係者との連携と安全の体制が求められます。
- 大阪府の案内では、第三号研修の修了者だけの場合、手数料の記載はありません。
喀痰吸引等の登録は、医療的ケアが必要な方のご依頼にも応えられる体制づくりにつながります。まずは「どのご利用者に、どの行為が必要か」と「主治医・看護職員の協力が得られるか」を確認することが、最初の一歩です。
免責:この記事は、2026年10月13日時点の法令(社会福祉士及び介護福祉士法・同法施行規則)と、大阪府の公式の案内をもとにした一般的な情報のご紹介です。手続きや書類は変更されることがあります。個別の扱いは、大阪府の担当窓口にご確認ください。医療的ケアの具体的な方法は、主治医・看護職員の指示に従ってください。
喀痰吸引等の登録のご相談は「介護福祉士×行政書士」の当事務所へ
喀痰吸引等の登録は、研修の修了、職員ごとの認定証、事業所の体制づくりと、準備することが多い手続きです。
行政書士中谷法務事務所では、介護福祉士でもある行政書士が、現場を知る立場から、認定証の申請や事業所の登録の書類づくりをお手伝いします。
登録のあとも、障がい福祉サービスの処遇改善加算の毎年の手続きなど、運営中の事業所の手続きを継続してサポートする顧問契約のご相談も承っています。




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